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アンカリング効果とは?

アンカリング効果のインフォグラフィック

アンカリング効果の概要

アンカリング効果(Anchoring Effect) とは、最初に提示された情報(特に数字や価格)が、船の錨(アンカー)のように心に強く残り、その後の判断や意思決定がその最初の情報に大きく引っ張られてしまう心理現象を指します。

ビジネスでの重要ポイント
  • 価格戦略・交渉の主導権: 最初に提示する価格や条件が、その後の交渉の基準点となり、有利な結果を導きやすくなります。
  • マーケティング効果の最大化: セール時の価格表示や商品価値の訴求において、高い参照価格をアンカーとして設定することで、製品の魅力を高め、購買意欲を刺激します。
  • 意思決定の質向上(バイアスへの対処): 自社や自身がアンカリング効果に影響されている可能性を認識し、客観的な判断基準を持つことで、より合理的な意思決定が可能になります。
  • 目標設定・予算策定への影響: 初期に設定された目標値や予算案がアンカーとなり、その後の議論や修正がその範囲内に留まりやすくなる傾向があります。

この効果は、価格交渉から製品の価値評価、さらには日常の些細な選択に至るまで、私たちの判断に知らず知らずのうちに影響を与えています。ビジネスシーンでは、この効果を戦略的に活用するだけでなく、自身が不利益を被らないように意識することも重要です。

なぜそうなるの?~「アンカリング効果」の心理メカニズム解説~

アンカリング効果がこれほど強力に作用する背景には、人間の認知プロセスにおけるいくつかの特徴が関わっています。

  • 最初の情報への過度な依存(ヒューリスティック): 私たちの脳は、複雑な判断を迫られた際に、効率的に結論を出すための思考のショートカット(ヒューリスティック)を用います。アンカリング効果は、最初に与えられた情報を「とりあえずの正解」や「出発点」として捉え、そこから調整を行おうとする心理作用です。しかし、この調整は不十分な場合が多く、結果として最初のアンカーに判断が引きずられてしまいます。
  • 情報の検索と解釈の偏り: 一度アンカーが設定されると、そのアンカーを支持するような情報を無意識のうちに探しやすくなったり、曖昧な情報をアンカーに都合の良いように解釈したりする傾向が生じます。
  • 認知的努力の節約: ゼロから最適な数値を考え出すよりも、提示された数値を基準に微調整する方が、脳にとっては認知的負荷が少ないため、アンカーに頼りがちになります。

ダニエル・カーネマンらの研究によれば、アンカリングは「システム1」(直感的で速い思考)の働きによるものであり、意識的な「システム2」(論理的で遅い思考)が十分に機能しない場合に特に強く現れるとされています。

たとえそのアンカーがランダムな数字であったとしても、私たちの判断に影響を与えうることが実験で示されています。

【シーン別】ビジネスでの活用事例集

マーケティング・価格戦略シーン

セール時の価格表示(二重価格表示):
百貨店やECサイトで「通常価格 ¥50,000 → 特別価格 ¥30,000」と表示するのは典型的なアンカリング戦略です。最初の「¥50,000」という価格が強力なアンカーとなり、たとえ3万円でも「2万円もお得だ!」と消費者に強く印象づけ、購買を後押しします。(ただし、不当な二重価格表示は景品表示法に抵触する可能性があるため注意が必要です。)

高額商品の価値訴求:
高級車や宝飾品などの場合、まず製品の卓越した品質、希少性、ブランドストーリーなどを訴求し、非常に高い価値があることを印象づけます(価値アンカー)。その上で価格を提示することで、価格に対する納得感を高める効果を狙います。

寄付金額の選択肢提示:
慈善団体が寄付を募る際、ウェブサイトなどで「ご寄付の目安:¥10,000 / ¥5,000 / ¥3,000 / その他」のように選択肢を提示する場合、最初に高い金額を提示することで、寄付額の基準を引き上げる効果が期待できます。多くの人は、提示された範囲内で自分の寄付額を決定しようとします。

営業・提案シーン

初期提案・見積提示:
価格交渉や契約条件の交渉において、最初に自社に有利な(しかし現実的な範囲で高めの)条件を提示することで、交渉のアンカーを設定します。相手方はその初期提案を基準に議論を進めることになり、結果として自社が望む条件に近いところで合意しやすくなります。

不動産の内覧戦略:
不動産業者が顧客を案内する際、意図的に最初に予算を少し超える魅力的な物件(アンカー物件)を見せる手法があります。その後の物件が最初の物件と比較されることで、顧客の判断基準に影響を与え、成約に繋げやすくします。

成功のコツと注意すべき点

成功のコツ

アンカーの「妥当性」と「説得力」:
アンカーは、相手がある程度受け入れられる範囲で、かつその数値に何らかの根拠や背景があるとより効果的です。

自信を持った提示:
曖昧な態度でアンカーを提示すると、その効果は薄れます。明確かつ自信を持って伝えましょう。

最初のアンカーの重要性:
多くの場合、交渉や意思決定において最初に設定されたアンカーが最も強い影響力を持ちます。可能であれば、自らアンカーを設定する側に回りましょう。

相手のアンカーへの対処法を準備:
相手がアンカーを設定してきた場合に、それをどう認識し、どう対応するかの戦略を持っておくことが重要です。

注意すべき点

不当な価格表示・倫理的問題:
セール時の「通常価格」が実態のないものであったり、顧客を欺くようなアンカー設定は、景品表示法違反や企業の信頼失墜に繋がります。常に公正さと透明性を保つ必要があります。

アンカーが現実離れしすぎると逆効果:
提示するアンカーがあまりにも市場価格や常識からかけ離れていると、相手に不信感を与え、交渉決裂や提案拒否の原因となります。適切なリサーチに基づいたアンカー設定が不可欠です。

自身がアンカーに囚われない意識(消費者・交渉者として):
最初に提示された情報が絶対的なものではないことを常に意識し、客観的な情報収集や自分なりの判断基準を持つことが、アンカリング効果の不利益を避けるために重要です。

交渉時の冷静な対応:
ビジネス交渉の場では、相手が提示する最初の条件(アンカー)に感情的に反応したり、安易に引きずられたりしないよう、事前の準備と冷静な判断が求められます。

【応用編】関連知識と組み合わせて効果を高める

アンカリング効果は、他の行動経済学の概念や交渉術と組み合わせることで、その戦略的価値をさらに高めることができます。

フレーミング効果:
同じ情報でも、伝え方や提示の仕方(フレーム)によって受け手の印象が変わる効果。アンカーを提示する際に、それがより魅力的に、あるいは妥当に感じられるようなフレームを用いることで、アンカリング効果を強化できます。

プロスペクト理論(特に損失回避性):
人は利益を得る喜びよりも損失を避けることを重視する傾向。アンカーを「これを逃すと損をする」という損失回避の文脈で提示することも効果的です。

ドア・イン・ザ・フェイス:
最初に大きな(通りにくい)要求をして断らせ、次に本命の小さな要求を提示して承諾を得やすくする交渉術。最初の大きな要求がアンカーとなり、その後の要求を相対的に受け入れやすくします。

スカーシティ効果:
「限定価格」「今だけのオファー」といった形でアンカー価格を提示し、希少性を組み合わせることで、即時の意思決定を促す効果が期待できます。

これらの知識を組み合わせることで、より高度な価格戦略、交渉戦略、マーケティング戦略を立案・実行することが可能になります。


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