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参照価格とは?

参照価格のインフォグラフィック

参照価格の概要

参照価格(Reference Price) とは、消費者が商品やサービスの価格が高いか安いかを判断する際に、無意識的あるいは意識的に比較の基準として用いる心の中の「ものさし」となる価格のことです。

「これって、だいたいいくらくらいが相場だっけ?」と頭に思い浮かべる、その基準値段を指します。

ビジネスでの重要ポイント
  • 価格設定戦略の根幹: 顧客が持つ参照価格を理解し、それに対して自社製品の価格をどう位置づけるか(高くするか、低くするか、同等にするか)が、価格戦略の基本となります。
  • プロモーション効果の最大化: 「通常価格より〇〇円お得!」といった割引表示は、参照価格を明示することで、お得感を際立たせ、購買意欲を刺激します。
  • 顧客の価値認識のコントロール: 企業は、外的参照価格(例:メーカー希望小売価格、比較広告)を提示することで、顧客の内的参照価格(記憶に基づく価格)に影響を与え、自社製品の価値認識を有利に導くことができます。
  • 競争優位性の構築: 競合製品の価格を参照価格として意識させ、それに対する自社製品の優位性(価格または価値)を訴求することで、市場での競争力を高めます。
  • 顧客の購買意思決定プロセスへの深い洞察: 顧客が何を参照価格としているのかを理解することは、彼らの価格に対する感受性や購買行動を予測し、より効果的なマーケティング施策を打つための重要な手がかりとなります。
  • ブランドイメージとの整合性: 高価格帯のブランドであれば高い参照価格を、バリューブランドであれば低い参照価格を顧客が持つように、ブランドイメージと参照価格の整合性を図ることが重要です。

この「心のものさし」である参照価格をいかに理解し、戦略的に働きかけるかが、企業の価格決定力と収益性を大きく左右します。

なぜそうなるの?~「参照価格」の心理メカニズム解説~

消費者が参照価格を形成し、それが購買判断に影響を与える背景には、いくつかの基本的な認知心理や経済行動のメカニズムが存在します。

内的参照価格と外的参照価格の形成:

  • 内的参照価格(Internal Reference Price): 消費者が過去の購買経験や記憶、あるいはその商品カテゴリーに対する一般的な知識に基づいて、心の中に形成する参照価格。
  • 外的参照価格(External Reference Price): 企業側が広告、店頭表示、セール告知などで提示する価格情報(例:「メーカー希望小売価格」「通常当店価格」「競合A社製品の価格」など)。これが消費者の内的参照価格の形成や、その場での価格評価に影響を与えます。

適応水準理論(Adaptation-Level Theory): 人々がある刺激(この場合は価格)を評価する際に、過去に経験した同様の刺激の平均的な水準(適応水準)を基準にするという考え方。この適応水準が、内的参照価格の基礎となります。

アンカリング効果(Anchoring Effect): 最初に提示された価格情報(外的参照価格など)が、その後の価格評価の基準点(アンカー)となり、判断がそのアンカーに引きずられる現象。レストランメニューにおける高額な「アンカー・プライシング」は、この効果を狙ったものです。

プロスペクト理論における「参照点」としての機能: プロスペクト理論では、人々は絶対的な価値ではなく、ある「参照点」からの変化(利得または損失)として価値を認識します。参照価格は、この「参照点」として機能し、実際の販売価格が参照価格より安ければ「利得(お得)」、高ければ「損失(割高)」と感じやすくなります。

知覚価値(Perceived Value)との比較: 消費者は、商品やサービスから得られると期待する価値(知覚価値)と、参照価格および実際の販売価格を比較し、購入の妥当性を判断します。

情報の処理効率化(ヒューリスティック): 全ての商品の適正価格を常に詳細に分析するのは困難なため、参照価格という簡便な手がかり(ヒューリスティック)を用いて、迅速に価格判断を行おうとします。

これらのメカニズムが複合的に作用し、参照価格は私たちの購買意思決定において、意識的・無意識的に関わらず、重要な役割を果たしているのです。

【シーン別】ビジネスでの活用事例集

小売・Eコマースにおける価格提示戦略

AmazonなどのECサイトにおける「過去価格」「参考価格」表示: 商品ページに「過去〇日間の最低価格」「参考価格(メーカー希望小売価格など)」といった外的参照価格を表示することで、現在の販売価格のお得感を際立たせ、顧客の購買決定を後押しします。特にタイムセールなどでは、この比較が強力な購入動機となります。

スーパーマーケットの特売品における「当店通常価格より〇〇円引き」表示: 多くのスーパーで日常的に見られる「当店通常価格 398円の品が、本日に限り 298円!」といった表示は、意図的に少し高めの「当店通常価格」を参照価格として設定し、実際の割引額や割引率を強調することで、消費者の価格感受性に訴えかけます。(ただし、この通常価格の根拠には注意が必要です。)

アパレル業界のセールにおける「〇%OFF」表示: 「通常価格 20,000円のジャケットが、今なら50%OFFで10,000円!」という表示は、「通常価格20,000円」という明確な外的参照価格を提示することで、「半額」という強いお得感を演出し、衝動買いを誘発しやすくします。

サービス業・飲食業におけるメニュー戦略

レストランのメニューにおける「アンカー・プライシング(おとり価格)」: メニューにあえて非常に高価な「特選コース」や「最高級ワイン」を掲載することで、それが参照価格(アンカー)となり、他の比較的高価なメニュー(本命)が相対的に手頃で魅力的に見えるようにする戦略。

ホテルの宿泊プランの「通常料金」と「早割・直前割」: ホテルの予約サイトでは、「通常料金(ラックレート)」が参照価格として提示され、それに対する「早割プラン」や「直前割引プラン」のお得感が強調されます。

成功のコツと注意すべき点

成功のコツ

信頼できる参照価格を提示する: 顧客が「この参照価格は妥当だ」と感じられるような、根拠のある、信頼性の高い情報を提示することが不可欠です。

「お得感」を具体的に示す: 単に安いと訴えるだけでなく、「〇〇円お得!」「通常より〇%OFF!」といった具体的な数値で、参照価格との差を分かりやすく示すことが効果的です。

透明性と誠実さを保つ: 価格設定の背景や割引の理由などを、可能な範囲でオープンにすることで、顧客の信頼を得やすくなります。

知覚価値を高める努力を怠らない: 参照価格戦略と並行して、製品やサービスそのものの品質、機能、ブランドイメージといった「知覚価値」を高める努力を継続することで、価格競争からの脱却を目指します。

顧客セグメントごとに参照価格戦略を使い分ける: 価格に敏感な層と、そうでない層では、有効な参照価格の提示方法や訴求ポイントが異なります。

注意すべき点

不当な「二重価格表示」による法的リスクと深刻な信頼失墜: 参照価格として提示する「通常価格」や「メーカー希望小売価格」が、実際には過去に相当期間販売されていた実績のない架空の価格であったり、根拠なく不当に高く設定されたものであったりする場合、それは消費者を欺く「不当な二重価格表示」として景品表示法に違反し、行政措置(課徴金など)の対象となるだけでなく、企業の社会的信用を著しく損ないます。常に公正で透明性のある価格表示が大前提です。

参照価格の主観性と変動性への理解不足: 消費者が持つ内的参照価格は、個人の過去の購買経験、現在の情報の入手状況、その時の気分や経済状況、さらには社会的・文化的な背景など、極めて多くの主観的要因によって異なり、また常に変動する可能性があります。企業は、画一的な参照価格を想定するのではなく、ターゲット顧客がどのような参照価格を持っているかを常に意識し、市場の変化に敏感に対応する必要があります。

参照価格が実勢価格よりも低すぎる場合の収益性圧迫リスク: もし顧客が持つ内的参照価格が、企業が適正な利益を確保できる価格帯よりも大幅に低い場合、企業は常に値下げ圧力を受け、十分な収益を上げられず、事業の継続が困難になる可能性があります。企業は、自社製品の適正な価値を顧客に粘り強く伝え、適切な参照価格を市場に形成していくためのブランディング努力も必要です。

価格以外の「総合的な価値」伝達の重要性の軽視: 参照価格との比較でお得感を演出することは有効な価格戦略の一つですが、それだけに依存するのではなく、製品やサービスの品質、機能、デザイン、ブランドイメージ、アフターサービス、企業の信頼性といった、価格以外の「総合的な価値」をしっかりと顧客に伝え、それに基づいて評価してもらうことが、長期的な顧客ロイヤルティと競争優位の確立には不可欠です。

消費者としての賢明な判断力と情報リテラシーの必要性: 消費者としては、店舗や広告で提示される「通常価格」「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった外的参照価格を鵜呑みにせず、それが本当に妥当なものなのか、他の店舗やオンラインショップの価格と比較したり、商品の品質や実際の価値を冷静に見極めたりする賢明な判断力と情報リテラシーを持つことが、不必要な支出を避け、賢い買い物をするためには重要です。

「アンカー」としての参照価格の固定化リスク: 一度、特定の価格が強力な参照価格として顧客の心に定着してしまうと、その後に価格を上げることが非常に難しくなる場合があります。初期の価格設定は慎重に行う必要があります。

【応用編】関連知識と組み合わせて効果を高める

参照価格の概念は、他の行動経済学の原理やマーケティング戦略と組み合わせることで、その効果をさらに高めることができます。

アンカリング効果: 参照価格は、まさにアンカリング効果が価格判断に作用する典型例です。最初に提示された参照価格が、その後の価格評価の強力な基準点(アンカー)となります。

フレーミング効果: 同じ価格差でも、それを「〇円お得!(利得フレーム)」と表現するか、「通常価格より安い!(比較フレーム)」と表現するかで、顧客の受け止め方が変わります。参照価格の提示方法もフレーミングの一種です。

プロスペクト理論: 参照価格は、利得と損失を評価する際の「参照点」として機能します。実際の販売価格が参照価格より安ければ「利得」、高ければ「損失」と認識され、特に損失回避の心理が強く働きます。

知覚価値(Perceived Value): 参照価格と実際の価格の比較だけでなく、顧客が製品やサービスから得られると期待する「知覚価値」とのバランスが、最終的な購買意思決定を左右します。

価格弾力性: 参照価格からの乖離の度合いによって、需要の価格弾力性が変化することがあります。

心理的価格設定(Psychological Pricing): ナンバー9の法則(端数価格)、慣習価格、名声価格(プレステージ価格)など、参照価格はこれらの心理的価格設定戦略を支える基本的な概念です。

ティアードプライシング: 複数の価格プランを提示する際、各プランの価格や、上位プランの価格が下位プランの参照価格として機能し、選択に影響を与えます。

これらの知識を統合的に活用することで、より科学的で顧客心理に深く働きかける、効果的な価格戦略を立案・実行できます。


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