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片面提示とは?

片面提示のインフォグラフィック

片面提示の概要

片面提示(One-Sided Message) とは、説得的なコミュニケーションを行う際に、伝えたい主張や商品の利点、ポジティブな側面のみを提示し、意図的に反対意見、欠点、あるいは不利な情報といったネガティブな側面には触れない情報伝達の手法のことです。

何かをアピールする際、良いところだけを強調して伝えるコミュニケーション戦略と言えます。

ビジネスでの重要ポイント
  • 広告・PR戦略におけるメッセージ設計: 製品やサービスの魅力を最大限に伝え、消費者の購買意欲を短期間で高めたい場合に有効な手段となり得ます。
  • セールストークやプレゼンテーション: 相手がそのテーマについて知識が浅い場合や、元々好意的な態度を持っている場合に、分かりやすく、力強い印象を与えることができます。
  • 新製品・新サービスの市場導入初期: まずは製品の革新性や主な便益に焦点を当て、市場の関心と期待感を醸成する際に用いられることがあります。
  • ブランドイメージのポジティブな側面強調: 特定のブランドイメージ(例:高品質、楽しさ、安心感)を植え付けたい場合に、その側面に合致する情報のみを選択的に提示します。
  • ただし、信頼性や長期的な関係構築におけるリスクも: 知識のある相手や批判的な見方をする相手には逆効果になる可能性があり、後から不利な情報が露見した場合、信頼を大きく損なう危険性もはらんでいます。「両面提示」との戦略的な使い分けが鍵となります。

この手法は、受け手の特性や状況によっては非常に効果的ですが、その適用には慎重な判断と倫理的な配慮が不可欠です。

なぜそうなるの?~「片面提示」の心理メカニズム解説~

片面提示が特定の状況下で受け手に影響を与えやすい背景には、人間の情報処理の特性や心理的な傾向が関わっています。

認知的単純化と理解の容易さ: 多くの情報は、複雑で多面的な側面を持っています。片面提示は、情報を一方の側面(通常はポジティブな側面)に絞って提示するため、受け手にとっては情報が単純化され、理解しやすく、記憶にも残りやすいというメリットがあります。特に、情報処理へのモチベーションが低い場合や、時間が限られている場合には、この分かりやすさが受容を促します。

説得の周辺的ルート(精緻化見込みモデルとの関連): リチャード・ペティとジョン・カシオッポが提唱した精緻化見込みモデル(ELM)によれば、説得的メッセージの処理には、内容を深く吟味する「中心的ルート」と、メッセージの表面的な手がかり(例:話し手の魅力、情報の多さなど)に影響される「周辺的ルート」があります。片面提示は、受け手がメッセージ内容を深く吟味する意欲や能力が低い場合(周辺的ルート処理)、提示されたポジティブな情報に素直に影響されやすいと考えられます。

反論機会の欠如と初期の受容性: 片面提示では、反対意見やデメリットが提示されないため、受け手は即座に反論する材料を持たず、提示された情報を比較的スムーズに受け入れやすい傾向があります。特に、そのテーマに関する予備知識が少ない場合は、提示された情報が唯一の判断基準となりやすいです。

自信と断定的な印象の付与: メリットのみを力強く主張する態度は、話し手や情報源がその主張に対して強い自信を持っているかのような印象を与え、受け手に「きっとそうなんだろう」と思わせる効果がある場合があります。

感情的な訴求との親和性: 片面提示は、しばしば感情に訴えかけるメッセージ(例:夢、希望、喜び、安心感)と組み合わせて用いられ、論理的な吟味よりも感情的な反応を引き出すことを狙います。

ただし、これらの効果は、受け手の知識レベル、関与度、初期の態度、そして後から触れる情報によって大きく左右されることに注意が必要です。

【シーン別】ビジネスでの活用事例集

 マーケティング・広告・販売促進シーン

テレビCMやバナー広告における製品メリットの集中訴求: 「洗剤のCMの『驚きの白さ!』アピール」の例のように、限られた時間やスペースの中で製品の最も強力な利点(例:洗浄力、効果、利便性)を強調し、消費者の注意を引きつけ、記憶に残すために片面提示が多用されます。デメリットや細かい使用上の注意は、ウェブサイトや取扱説明書で補完されることが一般的です。

新製品発売初期の「革新性」「期待感」の醸成プロモーション: 企業が全く新しいカテゴリーの製品や、画期的な技術を市場に投入する初期段階では、まずその製品がもたらす新しい価値や未来への期待感といったポジティブな側面に焦点を当てたコミュニケーションを展開し、市場の興奮と関心を最大限に高めることを目指します。この時点では、敢えて潜在的な課題や競合との詳細な比較には触れないことが多いです。

テレビショッピングにおけるメリットの畳みかけと即時行動喚起: テレビショッピング番組では、司会者やゲストが製品の驚くべき効果、他にはない利便性、そして「今だけの特別価格!」や「限定特典付き!」といった購入メリットを、実演や体験談を交えながら、次から次へと畳みかけるように強調します。これにより、視聴者の購買意欲を短時間で一気に高め、「今すぐ電話しなければ!」という即時的な行動へと誘導します。

不動産広告や旅行パンフレットにおける「夢」や「理想」の提示: 新築マンションの広告で描かれる「都心へのアクセス抜群、緑豊かな理想の住環境」や、旅行パンフレットに掲載される「透き通る青い海と白い砂浜、極上のリゾート体験」といったイメージは、製品やサービスが提供する最も魅力的な側面(ポジティブな体験)を前面に押し出し、消費者の夢や憧れに訴えかけます。現実的な側面(例:価格、混雑状況、天候リスクなど)は、問い合わせや詳細検討の段階で徐々に伝えられる傾向があります。

人材採用・企業PRシーン

求人広告における「やりがい」「成長機会」「良好な社風」の強調: 企業が求人広告を出す際、「若手でも大きな裁量権を持って挑戦できる、やりがいのある職場です!」「充実した研修制度とメンターシップで、あなたのキャリアアップを全力でサポートします!」「風通しが良く、アットホームな雰囲気で、最高の仲間たちと一緒に目標を達成しましょう!」といったように、仕事の魅力やポジティブな企業文化、成長機会を強調して、優秀な応募者からの関心を集めようとします。

学校やクラブ活動の「楽しさ」「魅力」を前面に出した新入生勧誘: 新入生歓迎の時期に、各クラブ活動の先輩たちが「うちの部活は先輩も優しくて、イベントも盛りだくさんで、毎日最高に楽しいよ!」「全国大会出場を目指せる、やりがいのある活動です!」といったように、活動の楽しさや達成感、良い点ばかりをアピールして新入部員を勧誘します。

成功のコツと注意すべき点

成功のコツ

ターゲットオーディエンスの特性を深く理解する: 相手がそのテーマについてどの程度の知識を持ち、どのような態度を持っているかによって、片面提示の有効性は大きく変わります。

メッセージの「核心」を一つに絞り、強力に訴求する: あれもこれもと多くのメリットを羅列するよりも、最も重要な一点に絞って力強く訴えかける方が、記憶に残りやすく、説得力が増すことがあります。

信頼できる情報源であることを印象づける: たとえ片面的な情報であっても、その情報源が信頼できると受け手が感じれば、メッセージの受容性は高まります。

ポジティブな感情を喚起する: 喜び、希望、興奮、安心感といったポジティブな感情とメッセージを結びつけることで、より好意的に受け止められやすくなります。

「分かりやすさ」と「簡潔さ」を追求する: 複雑な情報は避け、誰にでもすぐに理解できるような平易な言葉とシンプルな構成を心がけます。

注意すべき点

「欠点隠し」や「不都合な真実の隠蔽」が露見した場合の深刻な信頼失墜リスク: 特にインターネットやSNSで情報が瞬時に共有・検証される現代においては、企業が意図的に製品の重大な欠陥、サービスの不利な契約条件、あるいは企業活動に関するネガティブな情報を隠蔽して片面的な情報発信を行っていたことが後で発覚した場合、消費者の信頼を根こそぎ失い、大規模な不買運動、ブランドイメージの修復不可能な毀損、そして法的な責任追及にまで発展する極めて深刻なリスクがあります。

知識が豊富で批判的な思考を持つ相手には全くの逆効果となる可能性: 受け手がそのテーマについて既に多くの専門知識を持っていたり、元々その主張に対して懐疑的・批判的な態度を持っていたりする場合には、メリットばかりを強調する片面提示は、「情報を偏って操作しようとしている」「何か都合の悪いことを隠しているのではないか」といった強い不信感や反感を抱かせ、かえって説得力を完全に失ってしまいます。このような相手には、むしろデメリットや反対意見も誠実に認めた上で、それでもなお自社の主張や製品が優れている理由を示す「両面提示」の方がはるかに効果的です。

長期的な顧客との信頼関係構築には不向きであることの認識: 片面提示は、短期的な注目獲得や、即時の購買行動喚起といった目的には有効な場合がありますが、顧客と長期的に良好で持続的な信頼関係を築いていくためには、メリットだけでなく、潜在的なデメリットや注意点についても誠実に情報提供し、顧客が十分に納得した上で製品やサービスを選べるようにサポートする姿勢が不可欠です。

倫理的な問題と「消費者の誤解」を意図的に招くことの危険性: 説得の目的が、相手に不正確な情報を信じ込ませたり、十分な情報がないまま不利益な選択をさせたりすることにある場合、片面提示はそのための不誠実で非倫理的な手段となり得ます。企業は常に、その情報伝達方法が倫理的な観点から適切であるかどうかを厳しく自問し、消費者の正しい理解と判断を助ける責任を負っています。

「片面提示」と「両面提示」の戦略的な使い分けと、その判断基準の重要性: 説得の最終的な目的(例:即時の行動喚起か、長期的な理解と態度の変容か)、受け手の初期の態度や知識レベル、関与度(そのテーマへの関心の高さ)、そして伝えるべき内容の性質(例:単純で分かりやすい製品か、複雑でリスクも伴うサービスか)などを総合的に考慮し、片面提示と両面提示のどちらがより効果的かつ適切であるか、あるいは両者をどのように巧みに組み合わせるべきかを戦略的に判断することが、コミュニケーションの成否を分ける上で極めて重要です。

情報の「受け手」としての批判的吟味の必要性: 私たちは日々、多くの片面的な情報に接しています。「良いことずくめ」に見える情報に触れた際には、本当にそうなのか、隠されたデメリットや反対意見はないのか、情報源は信頼できるのか、といった点を常に批判的に吟味する姿勢が求められます。

【応用編】関連知識と組み合わせて効果を高める

片面提示は、他のコミュニケーション理論や行動経済学の概念と組み合わせることで、その効果や適用範囲をより深く理解し、戦略的に活用できます。

両面提示(Two-Sided Message): 片面提示の対比概念。メリットとデメリット、賛成意見と反対意見の両方を提示する手法。受け手が批判的であったり、知識が豊富であったりする場合に、より信頼性を高め、説得効果が持続しやすいとされます。片面提示と両面提示の使い分けは、説得戦略の基本です。

説得的コミュニケーション理論(ELM:精緻化見込みモデルなど): 片面提示が、受け手の情報処理の動機や能力が低い場合に、メッセージの周辺的な手がかりとして機能しやすいこと(周辺的ルート処理)を説明します。

単純接触効果(Mere Exposure Effect): 繰り返し同じメッセージ(たとえ片面的でも)に接触することで、そのメッセージやブランドに対する好意度が高まることがあります。

フレーミング効果: 同じ情報でも、どのような「枠組み(フレーム)」で提示するかによって印象が変わる効果。片面提示は、情報を意図的に特定のポジティブなフレームに収める行為と言えます。

アンカリング効果: 最初に提示された情報(例:片面提示で強調されたメリット)が、その後の評価の基準点(アンカー)となることがあります。

確証バイアス: 一度片面的な情報で好意的な印象を持つと、その後もその印象を支持する情報ばかりを探し、反する情報を無視する傾向(確証バイアス)が働く可能性があります。

これらの知識を統合的に活用することで、より状況に応じた、効果的で倫理的なコミュニケーション戦略を立案・実行することができます。


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