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両面提示とは?

両面提示のインフォグラフィック

両面提示の概要

両面提示(Two-Sided Message) とは、説得的なコミュニケーションを行う際に、伝えたい主張や商品の利点といったポジティブな側面だけでなく、あえて反対意見の存在や、製品の小さな欠点、あるいは不利な情報といったネガティブな側面も併せて提示する情報伝達の手法のことです。

良いところばかりを強調する「片面提示」とは対照的です。

ビジネスでの重要ポイント
  • 信頼性と誠実さの向上: デメリットや課題点も率直に開示することで、情報の発信者(企業やブランド)に対する信頼感や誠実な印象を高めます。
  • 説得効果の持続性と反論への耐性強化(免疫効果): 事前にマイナス面にも触れておくことで、後から競合他社や第三者から同様の指摘を受けても、受け手は「それは知っていた上で選んだ」と感じ、説得効果が揺らぎにくくなります。
  • 知識レベルの高い顧客や批判的な見方をする顧客への効果: 情報感度が高く、物事を多角的に比較検討する顧客層に対しては、片面的な情報よりも両面的な情報の方が納得感を得られやすいです。
  • 顧客満足度の向上と期待値コントロール: あらかじめ限界や欠点を伝えておくことで、購入後の過度な期待による失望(バイヤーズリモース)を防ぎ、現実的な満足度を高めます。
  • ブランドイメージの差別化: 正直で透明性の高いコミュニケーション姿勢は、他の多くの企業との差別化に繋がり、長期的なブランド価値を構築します。
  • 採用活動におけるミスマッチ防止: 仕事の良い面だけでなく、大変な側面も伝えることで、入社後のミスマッチを防ぎ、定着率向上に繋げます。

この手法は、特に受け手が一定の知識を持っていたり、反対意見に触れる可能性が高い場合において、短期的な訴求力よりも長期的な信頼関係と説得効果の持続性を重視する際に極めて有効です。

なぜそうなるの?~「両面提示」の心理メカニズム解説~

両面提示が、特定の条件下で片面提示よりも効果的な説得や信頼構築に繋がる背景には、いくつかの重要な心理的・コミュニケーション上のメカニズムが働いています。

情報源の信頼性(Source Credibility)の向上: あえて自らにとって不利になり得る情報(デメリットや反論)も開示する姿勢は、受け手に対して「この情報源は正直で、公平な視点を持っている」「何かを隠そうとしていない」という印象を与え、情報源そのものへの信頼感を高めます。信頼できる情報源からのメッセージは、より受け入れられやすくなります。

反論への「免疫効果(Inoculation Effect)」の獲得: 社会心理学者のウィリアム・マクガイアが提唱した「予防接種理論」と同様のメカニズムです。あらかじめ弱い形の反対論やデメリットに触れておき、それに対する反論や補足説明を提示しておくことで、受け手は将来、より強力な反対意見やネガティブ情報に遭遇した際に、それに対する「心理的な免疫」ができ、元の肯定的な態度を維持しやすくなります。つまり、説得効果が長持ちするのです。

受け手の能動的な情報処理と関与度の向上: メリットだけでなくデメリットも提示されると、受け手は情報をより多角的に吟味し、自分自身で比較検討するようになります。この能動的な情報処理プロセスは、メッセージへの関与度を高め、より深く納得した上での態度形成を促します。

知覚される公平性と客観性: 一方的な主張だけを繰り返すよりも、異なる側面からの情報も併せて提示する方が、受け手はそのメッセージをより公平で客観的なものとして認識しやすくなります。

「賢い消費者」としての自己認識の充足: メリットとデメリットの両方を理解した上で、それでもなおその製品やサービスを選択したという事実は、消費者に「自分は情報をきちんと比較検討し、賢明な判断を下した」という自己認識を与え、その選択への満足感を高めることがあります。

期待値の適切なコントロール: 事前に製品やサービスの限界や注意点を伝えておくことで、顧客の過度な期待を抑制し、購入・利用後の「思ったほどではなかった」という失望感を防ぎ、現実的な満足度に着地させやすくします。

これらのメカニズムにより、両面提示は、特に知的な受け手や、長期的な信頼関係が重要な場面において、より効果的で持続的な説得効果を発揮するのです。

【シーン別】ビジネスでの活用事例集

 マーケティング・広告・製品PRシーン

新製品レビューにおける「あえての欠点公表」: 新製品発表の際に、その革新性や優れた機能を強調するだけでなく、開発者自身が「バッテリー持続時間は今後の課題です」「この特定の操作は慣れが必要です」といった製品の限界や改善点にも率直に言及する。これは、特に製品知識が豊富で批判的な目を持つアーリーアダプター層や専門家からの信頼を獲得し、「この企業は自社製品を客観的に評価できている誠実な企業だ」という印象を与え、結果として製品全体の魅力とブランドへの好意度を高めます。

自動車比較サイトや専門誌における客観的なレビュー記事: 自動車の専門メディアが特定の車種を評価する際、走行性能、デザイン、燃費といった長所を詳細に解説すると同時に、「後部座席の空間が競合車よりやや狭い」「一部の内装素材にチープさが感じられる」といった短所や改善要望についても客観的に指摘するのが一般的です。これにより、読者は製品の全体像をバランス良く把握でき、メディアへの信頼性も向上します。

投資信託などの金融商品販売における「リスク情報」の明確な開示: 銀行や証券会社が投資信託や保険といった金融商品を顧客に販売する際には、期待されるリターン(メリット)だけでなく、元本割れの可能性、価格変動リスク、為替リスク、信託報酬や手数料といったコストやデメリット(リスク情報)についても、法律に基づいて必ず詳細かつ分かりやすく説明する義務があります。これは、顧客がリスクを十分に理解し、自己責任で投資判断を行えるようにするための、典型的な両面提示であり、顧客保護の観点からも極めて重要です。

BtoB向けソフトウェア製品紹介における「機能のトレードオフ」や「導入の前提条件」の説明: ある業務効率化ソフトウェアを紹介する際に、「このソフトウェアは非常に高度な分析機能を持ち、御社の課題解決に大きく貢献できますが、その反面、全ての機能を最大限に活用するためには、初期設定や従業員トレーニングにある程度の時間とコストを要します。もし、より迅速かつシンプルな導入をご希望の場合は、こちらのライト版もございます」といったように、製品の強力な利点と、それがもたらすかもしれない負担や前提条件の両面を提示し、顧客の状況やニーズに合わせた最適な選択を促します。

人材採用・企業広報シーン

企業の採用情報における「仕事の魅力」と「大変な側面」の率直な記述: 企業の採用ウェブサイトや求人広告、会社説明会などで、仕事のやりがい、充実した福利厚生、キャリアアップの機会といった魅力的な側面をアピールするだけでなく、「繁忙期には残業が多くなることもあります」「常に新しい技術を学び続ける高い自己成長意欲が求められます」「時には厳しい顧客からの要求に応えなければならない場面もあります」といった、仕事の厳しさや求められる努力についても正直に記載することで、入社希望者は企業文化や仕事内容をより現実的に理解でき、入社後のミスマッチを防ぎ、早期離職率の低下や、より覚悟を持った人材の獲得に繋げることができます。

危機管理広報における問題点の早期開示と改善策の提示: 企業が不祥事や製品事故を起こしてしまった場合、問題を隠蔽したり過小評価したりするのではなく、速やかに事実関係を認め、謝罪し、原因究明と具体的な再発防止策、そして被害者への補償といったネガティブな側面も含めて誠実に情報を開示する姿勢が、結果として社会からの信頼回復を早めることがあります。

成功のコツと注意すべき点

成功のコツ

「誠実さ」と「透明性」が伝わるようにする: 両面提示の最大のメリットは、情報源の信頼性を高めることです。小手先のテクニックではなく、本当に顧客や相手のことを考えて情報を開示しているという誠実な姿勢が伝わることが重要です。

提示するデメリットは「些細」または「克服可能」なものを選ぶ: あまりにも致命的な欠陥や、解決不可能な問題を提示してしまうと、さすがに説得効果は期待できません。

デメリットに対する「反論」や「補強材料」を必ずセットで用意する: 単に欠点を認めるだけでなく、「しかし、それにはこのような対策があります」「その点を考慮しても、こちらのメリットがはるかに大きいです」といった形で、ネガティブな情報を打ち消す、あるいは相対的に小さく見せる反論を提示することが極めて重要です。

ターゲットオーディエンスの「知性」を尊重する: 情報を操作しようとするのではなく、多角的な情報を提供し、最終的な判断は相手に委ねるという姿勢が、知的な受け手からの信頼を得ます。

ユーモアの活用(場合による): ちょっとした自虐的なユーモアを交えてデメリットに触れることで、親近感を高め、メッセージ全体の受容性を上げることができる場合もあります(ただし、TPOと相手を選ぶ必要があります)。

注意すべき点

知識が乏しい初心者や関与度の低い相手には、デメリット情報が過度な混乱や不安を招くリスク: 製品やテーマに関する予備知識がほとんどない初心者や、その情報に対してそれほど深く考えていない(関与度が低い)相手に対して、いきなり多くのデメリットや複雑な比較情報を提示すると、かえって情報を処理しきれずに混乱させてしまったり、不必要な不安感を抱かせてしまったりして、最終的に購買意欲や関心を削いでしまう可能性があります。このような場合には、まずは製品の主要なメリットを分かりやすく伝える片面提示の方が、初期の関心獲得には効果的なこともあります。

デメリットの伝え方と、それを打ち消す、あるいは上回る「反論・補強材料」の提示が極めて重要: 両面提示でデメリットや反対意見に触れる際には、単に欠点を正直に列挙するだけでは不十分です。それでは単にネガティブな情報を与えるだけで終わってしまいます。重要なのは、そのデメリットがどのように克服できるのか(例:「バッテリー持続時間は従来モデルより短くなりましたが、急速充電機能で15分で50%まで回復します」)、あるいはそのデメリットを考慮してもなお、それを補って余りあるほどの大きなメリットや独自の価値が存在することを、具体的かつ説得力を持って併せて示す(反論を提示する)ことです。これにより、デメリットを認めた上での「それでもなお、この選択は合理的で魅力的だ」という結論に導くことができます。

あまりにも些細なデメリットの強調や、逆に重大な欠陥の意図的な軽視は不誠実な印象を与える: 両面提示のテクニックとして、あまりにも取るに足らない些細なデメリットをことさらに強調して「私たちはこんなに正直に欠点も開示していますよ」とアピールしようとしたり、逆に、製品の機能や安全性に関わるような重大な欠陥や、顧客にとって明らかに不利となる重要な情報を、ほんの少し触れるだけで済ませたり、専門用語で分かりにくくしたりするのは、不誠実で操作的な印象を与え、かえって信頼を損ないます。デメリットの重要度に応じた、バランスの取れた情報開示が求められます。

「片面提示」との戦略的な使い分けと、その判断基準の明確化が不可欠: 両面提示が常に片面提示よりも優れているというわけではありません。説得の最終的な目的(例:短期的な注目獲得か、長期的な信頼に基づく態度変容か)、受け手の特性(例:初期の態度が好意的か批判的か、そのテーマに関する知識レベルが高いか低いか、関与度はどうか)、そして伝えるべきメッセージの内容(例:単純明快な製品か、複雑で多面的なサービスか)などを総合的に考慮し、どちらのコミュニケーション手法がより効果的かつ適切であるか、あるいは両者をどのように戦略的に組み合わせるべきかを判断することが、コミュニケーション戦略の成否を分ける上で極めて重要です。

ネガティブ情報の開示に伴う短期的な影響と、長期的な信頼獲得とのバランス感覚: デメリットや不利な情報を正直に伝えることで、短期的には一部の顧客を失ったり、即時のコンバージョン率が低下したりする可能性もゼロではありません。しかし、長期的な視点で見れば、そのような誠実な情報開示姿勢は、顧客からの深い信頼を獲得し、より強固で持続的なブランドロイヤルティを築き上げ、結果として企業の持続的な成長に貢献するという認識を持つことが重要です。

「反論」の質が低いと逆効果: 提示したデメリットに対する反論や補強材料が、説得力に欠けていたり、論理的でなかったりすると、かえってデメリットが強調されてしまう可能性があります。

【応用編】関連知識と組み合わせて効果を高める

両面提示は、他の説得的コミュニケーション理論や行動経済学の概念と組み合わせることで、その効果をさらに高め、より洗練されたアプローチを設計できます。

片面提示(One-Sided Message): 両面提示の対比概念として理解し、ターゲットオーディエンスや状況に応じて戦略的に使い分けることが重要です。

説得的コミュニケーション理論(イェール学派の研究など): 情報源の信頼性、メッセージの構成、受け手の特性といった要因が説得効果にどう影響するかを理解する上で、両面提示の位置づけが明確になります。

精緻化見込みモデル(ELM:Elaboration Likelihood Model): 受け手が情報を深く吟味する「中心的ルート」と、表面的な手がかりに頼る「周辺的ルート」のどちらで処理するかによって、両面提示の受け止められ方が変わります。一般的に、中心的ルートで処理する意欲と能力が高い相手には、両面提示が効果的です。

予防接種理論(Inoculation Theory): 両面提示が反論への「免疫」を与えるメカニズムを説明する理論。説得効果の持続性を高める上で重要です。

信頼の経済学(Economics of Trust): 両面提示による情報源の信頼性向上は、顧客との信頼関係を構築し、取引コストを削減し、長期的な関係を育む上で不可欠です。

透明性マーケティング(Transparency Marketing): 企業が製品情報、製造プロセス、価格設定の根拠などを積極的に開示し、透明性を高めることで顧客の信頼を得ようとするアプローチ。両面提示はその具体的な手段の一つです。

フレーミング効果: デメリットを提示する際にも、それが致命的なものではなく、管理可能である、あるいは他の大きなメリットによって相殺されるといった「ポジティブなフレーム」で提示する工夫が有効です。

これらの知識を統合的に活用することで、より相手の心理を深く理解し、効果的で倫理的な説得コミュニケーション戦略を立案・実行することができます。


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