事業を始める際には、開業届(税務署への事業開始の届出)と、業種によって必要となる営業許可(各種許認可)の手続きが欠かせません。
本記事では、個人事業主・法人を問わず、開業届の提出方法から主要な業種別の必要許認可の種類と申請費用・期間までを解説します。さらに、開業届と営業許可の取得順序やメリット・デメリット、法人設立時の追加手続きについても詳しく説明します。
開業届の提出方法(提出先・必要書類・期限)

開業届とは、個人事業を開始したことを税務署に届け出る書類です。
個人事業主やフリーランスとして新たに事業を始める場合は、所轄の税務署にこの開業届(正式名称「個人事業の開業・廃業等届出書」)を提出します。開業届の用紙(『個人事業の開業・廃業等届出書』)は最寄りの税務署で入手できるほか、国税庁の公式サイトからダウンロードすることもできます。e-Taxを利用する場合はオンライン上で書類提出が完結するため、紙の用紙提出は不要です。
法人の場合は内容が異なり、「法人設立届出書」を提出することになります。
- 提出期限:
事業を開始した日から1ヶ月以内が原則です(所得税法で規定)。※青色申告を初年度から行う予定の場合は、開業日から2ヶ月以内に別途『所得税の青色申告承認申請書』を提出する必要がありますので注意してください。ペナルティ(罰則)は特にありませんが、期限内に提出しないと青色申告特別控除を受けられないなど税務上の不利益があります。したがって開業日から1ヶ月以内に、できるだけ早めの提出が望ましいでしょう。 - 提出先:
個人事業主の場合は自宅や事業所の所在地を管轄する税務署です。法人の場合も本店所在地を管轄する税務署に提出します。提出方法は、税務署窓口への持参・郵送・オンライン(e-Tax)提出のいずれも可能です。自分の都合に合わせて選びましょう。 - 必要書類:
提出する書類は基本的に開業届そのもの(提出用と控え)です。個人事業の場合、開業届にはマイナンバーの記載欄があるため、提出時に番号確認書類(マイナンバーカードや通知カード)と本人確認書類(運転免許証等)の提示または写しの添付が必要です(e-Tax提出の場合はオンラインで完結するため不要)。郵送提出の場合は、開業届の控え(写し)と返信用封筒を同封すると、受領印を押した控えが返送されます。また、青色申告承認申請書を提出する予定の場合は、開業届と一緒に用意します(青色申告を初年度から行うには開業日から2ヶ月以内の提出が必要)。 - 提出費用:
開業届の提出自体に手数料はかかりません。無料ですので、期限を過ぎてしまった場合でも早めに提出することをおすすめします。
個人事業主が適切に開業届を提出することで、後述する青色申告の特典を受けられるようになったり、事業用の銀行口座を屋号名義で開設できるなどのメリットがあります。一方で提出しなかった場合でも罰則こそありませんが、青色申告ができない・事業を公的に証明しづらいといったデメリットが生じます。
業種別の必要許認可一覧

事業内容によっては、開業届とは別に行政機関から営業許可や認可を受ける必要があります。以下に主要な業種ごとに、開業時に必要となる主な許認可と概要をまとめます(※業種によって複数の許認可が必要な場合があります)。
飲食店
営業開始には飲食店営業許可が必要です。保健所に申請し、店舗の施設検査に合格すると許可証が交付されます。申請手数料は各自治体で定められており、約15,000~20,000円が目安です。申請から許可取得までの標準処理期間はおおよそ2〜3週間です。食品衛生責任者の資格保持者を1名置くことも求められます。許可証の有効期限(更新制)があり、定期的な更新申請も必要です。
美容院
営業開始には美容所開設の届出(美容所開設検査)が必要です。保健所に開設届を提出し、施設が衛生基準を満たしているか検査を受けます。自治体により扱いが若干異なりますが、多くの地域で検査手数料が発生し、その相場は16,000~24,000円程度です。申請から許可(確認証)交付までは約1週間(7日程度)かかるのが一般的です。店舗の平面図や設備概要、従業員名簿、美容師免許証の提示なども必要です。なお理美容所を開設する本人が美容師(または理容師)免許を持っていれば届出制ですが、無資格者が経営者となる場合は別途行政の許可が必要になる点に注意してください。美容院を開業する本人が美容師(または理容師)免許を持っていない場合は、有資格の管理美容師を選任して店舗に配置する必要があります(経営者自身に資格がない状態で美容所を開設することはできません)。
クリニック
医師や歯科医師が個人で診療所(クリニック)を開業する場合、開設後10日以内に所轄保健所へ診療所開設届を提出することが義務付けられています(医療法第8条)。実際には開業前に保健所と事前相談を行い、レイアウトや衛生設備について指導を受けた上で開設日に合わせて届出・現地調査を行います。医師本人が開設者である診療所(無床の場合)は届出制で費用はかかりませんが、医療法人や医師以外の者が開設者となる場合は都道府県知事の開設許可が必要となり、申請手数料が約18,000円程度発生します。許可申請から許可証交付まで標準処理期間は約10営業日(2週間)以内とされることが多いです。また、保険診療を行う場合は開業と同時に保険医療機関の指定申請を別途行い、翌月から保険適用を受けられるよう手続きをします。クリニックでX線装置を設置する場合はX線装置備付届、麻薬を扱う場合は麻薬施用者免許申請など、医療行為に応じた許可・届出も必要です。
建設業
建設工事の請負を業とする場合、一定規模以上の工事を請け負うには建設業許可が必要です。具体的には「建築一式工事で1件の請負代金が1,500万円以上、その他の工事では500万円以上」の工事を請け負う場合に許可が求められます。許可は国土交通大臣許可(複数都道府県で営業する場合)か都道府県知事許可(単一都道府県内のみ)に分かれます。申請費用としては、知事許可では90,000円(収入印紙/証紙)、大臣許可では150,000円(登録免許税)が国に納付する手数料となります。審査には人的要件(有資格者や実務経験者の配置)、財産要件(500万円以上の資本金等)など厳格な基準があります。審査期間は都道府県知事許可で30~60日程度、大臣許可で90~120日程度が標準です(申請内容に不備がなければ、知事許可で約1.5~2ヶ月、大臣許可で3~4ヶ月が目安)。許可取得後も決算報告や5年ごとの更新手続きが必要になります。
小売業
一般的な新品の商品を販売する小売業自体には特別な許可は不要です。しかし、取り扱う商品によっては個別の許認可が必要となります。例えば酒類を販売する場合、税務署から酒類販売業免許を取得しなければなりません。酒類小売業免許申請には30,000円の登録免許税が課され、審査に約2ヶ月(標準処理期間)~3ヶ月程度を要します。
また中古品を扱うリサイクルショップ等の場合は、営業所ごとに警察署経由で古物商許可を取得する必要があります。古物商許可申請手数料は19,000円で、申請から許可までおおむね40日ほどかかります。この他、医薬品を販売する場合は都道府県知事の許可(第一種医薬品なら薬剤師配置と店舗許可、第二・三種一般用医薬品なら登録販売者配置と店舗許可)、タバコを販売する場合は財務局長のたばこ小売販売業許可(原則申請締切制)などが必要です。それぞれ申請先や審査基準、費用・期間が異なりますので、扱う商品の種類に応じて事前に確認しましょう。
上記以外にも、宿泊業(旅館業営業許可)、不動産業(宅地建物取引業の免許)、人材紹介業(職業紹介事業許可)、運送業(運送事業許可)など、業種によって様々な許認可があります。自分のビジネスに該当する許認可を漏れなく取得することが大切です。
営業許可と開業届はどちらを先に?その関係とは

開業届(税務署への届出)と営業許可類(各種許認可)は、それぞれ目的や所管が異なる手続きです。
一般に、営業許可(許認可)は事業を開始するための法的な資格であり、開業届は税務上の届出です。開業の際には両方とも必要ですが、取得・提出の順序について以下の点に注意しましょう。
- 営業許可は事業開始の前提条件:
飲食店や美容院など許可制の業種では、営業許可証を取得しなければ営業を開始できません。そのため、物件の工事完了後や開店前までに所定の許可を受けておく必要があります。例えば飲食店なら保健所の検査に合格して営業許可証が発行されて初めてお店をオープンできますし、美容院も保健所の開設検査に合格しないと営業できません。事業実態に直結する許認可は必ず開業日より前に取得しておきましょう。 - 開業届は事業開始後でも可(ただし期限に注意):
税務署への開業届は、事業を開始した日以降に提出するものです。開業日当日から1ヶ月以内であればいつ提出しても構いません(事前に開業届だけを出すことはできません)。多くの場合、営業許可の取得手続きや開業準備で慌ただしくなるため、開業届は開業後落ち着いてから提出するケースもあります。許認可の取得を優先しつつ、税務署への届出も忘れずに期日までに行うという順序になります。 - 並行して準備するケース:
業種によっては許認可取得と開業届提出のタイミングが重なることもあります。例えば法人を設立して飲食店を開く場合、会社の登記や税務署への法人設立届を進めながら、保健所への営業許可申請も並行して行う必要があります。いずれも時間がかかる手続きなので、許認可申請の進捗を見つつ開業届も期限内に提出するといったスケジュール管理が重要です。 - 片方だけでは開業できない:
開業届は税務上の届け出に過ぎず、それ自体が営業の許可や資格を与えるものではありません。一方、営業許可を取得しても税務署への届出を怠れば後述する税務上の優遇が受けられなかったり、確定申告の際に不利益が出る可能性があります。両方とも必要な手続きと認識し、それぞれ忘れずに行いましょう。
結論として、「営業許可(許認可)を先に、開業届を後に」という順序が一般的です。ただし実務上は必ずしも厳密な順番ではなく、許認可取得の見込みが立った段階で開業日を決めて開業届を提出する形になります。重要なのは、営業許可無しに事業を始めないことと、開業届を期限内に提出することです。
開業届を提出するメリット・デメリット

開業届を提出することには様々なメリットがありますが、一方で提出しない場合のデメリットも存在します。ここでは、主に個人事業主にとってのメリット・デメリットを整理します。
開業届を提出するメリット
- 青色申告の特典が受けられる:
開業届と同時に「所得税の青色申告承認申請書」を提出し承認を受ければ、青色申告による最大65万円の特別控除など税制上の優遇措置を受けられます。青色申告は手間はかかりますが大きな節税効果があり、事業所得に対する税負担を軽減できます。 - 屋号付き銀行口座・クレジットカードの開設:
開業届を提出し事業を始めた実績ができると、金融機関で屋号名義の銀行口座を開設できます。屋号口座があると事業用の取引とプライベートの資金を明確に分けられ、取引先からの信用も向上します。また、事業者向けのビジネスカード(法人カード)も作りやすくなり、経費精算や仕入れ決済に役立つ特典を利用できます。 - 融資や支援制度を受けやすくなる:
開業届を提出していることで、金融機関や日本政策金融公庫の創業融資制度などにおいて「事業を行っている証明」がしやすくなります。事業用の銀行口座や財務書類を整備していることで融資審査で有利に働き、創業資金の調達がスムーズになるケースがあります。各種補助金・助成金の申請でも開業届の控えの提出を求められることがあり、公的支援を受けるうえでも有益です。 - 事業を公的に証明できる:
開業届を税務署に提出し受理されると「開業届の控え」(税務署受付印の押印されたもの)が手元に残ります。これは個人事業を営んでいることを示す公式な書面として利用でき、例えば業種によって必要な各種営業許可の申請や取引契約の締結時に事業実態を証明する資料となります。開業届を出さずに事業を行っていると、対外的に事業者であることの証明が難しくなるため信用面で不利になる場合があります。
開業届を提出しない場合のデメリット
開業届を提出すること自体に大きなデメリットはありませんが、未提出で事業を始めた場合の不利益として次のような点が挙げられます。
- 青色申告特別控除が受けられない:
開業届(および青色申告申請)を出さないと青色申告ができず、自動的に白色申告扱いになります。その結果、青色申告者が受けられる各種特典(65万円控除や欠損金の繰越控除、専従者給与の経費算入など)が享受できず、長期的に見て税負担が増える可能性があります。 - 事業用の証明が困難:
開業届未提出の場合、個人事業主であることを客観的に示す書類がないため、金融機関から融資を受けたり事業用口座を開設したりする際に支障をきたすことがあります。特に銀行では開業届の控え提出を求められることが一般的です。提出していないと結果的にビジネスチャンスを逃すことにもなりかねません。 - 行政からのサポートを受けにくい:
自治体や公的機関が実施する創業支援施策(創業補助金、創業セミナーの案内など)においても、事業を公式に開始しているかどうかが判断基準になります。開業届を提出していないと、そうした支援情報の対象とみなされず受けられない場合があります。また、万一事業が軌道に乗らず廃業する際にも、開業届を出していれば廃業届を出すだけで手続きが完了しますが、未提出だと税務署に事業開始を認識されておらず手続きが不明瞭になることがあります。
まとめると、開業届提出のメリットは非常に大きく、デメリットはほぼ無いと言えます。強いて言えば、開業届を出すことで税務署に事業開始を把握されるため「副業でひっそり稼ぎたい」という場合には出したくないという人もいるようですが、適法に事業所得を得る以上は確定申告でいずれ収支を申告する必要があり、届出を怠る意味はあまりありません。よって基本的には全ての個人事業主が開業届を提出することが望ましいでしょう。
法人設立の場合の追加手続き(登記・税務署・都道府県への届出)

法人(会社)を設立して事業を始める場合、個人事業主の開業とは異なる追加の手続きが発生します。主なものを順を追って確認しましょう。
- 会社設立の登記:
法人を作るには、公証人役場で定款認証(株式会社の場合)を経て、法務局で法人設立登記を行う必要があります。これは事業を開始する前提となる手続きで、登記が完了して初めて会社が成立します。登記申請時には、資本金額に応じた登録免許税を納めます(例:株式会社は最低15万円、合同会社は6万円)。登記が完了すると「履歴事項全部証明書(登記事項証明書)」と「法人印鑑証明書」が発行できるようになります。 - 税務署への法人設立届出:
法人を設立したら、所轄税務署に対して法人設立届出書を提出します。提出期限は設立日(登記日)から2ヶ月以内です。添付書類として定款の写しや登記簿謄本(登記事項証明書)のコピー、株主名簿、設立時貸借対照表などが求められます。仮に2ヶ月を過ぎても罰則はありませんが、税務署側では法務局から登記情報が通知されるため、期限内に提出するのが望ましいです。また、法人も青色申告を行う場合は「青色申告の承認申請書」を提出します。こちらは原則として設立日から3ヶ月以内かつ設立初年度の事業年度終了日の日前日までが期限です(早い方が適用されます)。 - 地方税務署(都道府県・市区町村)への届出:
法人設立後は、都道府県税事務所および市区町村役所にも法人設立届(地方税)を提出する必要があります。提出期限は自治体によって異なりますが、多くは設立日から1ヶ月以内と定められています。例えば東京都23区では15日以内(東京都主税局への届出)と非常に短いので注意が必要です。地方税の届出では法人事業税・法人住民税の申告納税のための登録が行われます。必要書類は自治体によりますが、一般に定款や登記事項証明書の写しを添付します。 - その他税務関連の届出:
法人として事業を営むにあたり、状況に応じて追加の届出が必要です。代表的なものに給与支払事務所等の開設届出書(役員や従業員に給与・報酬を支払う場合に提出。設立日から1ヶ月以内)や、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請(従業員が常時10人未満なら源泉税を年2回納付とする特例を受けるための申請)などがあります。また消費税については、資本金や設立初年度の課税売上高によっては課税事業者選択届出書等を提出するケースもあります(設立時資本金1,000万円以上なら自動的に課税事業者)。 - 社会保険・労働保険の加入:
法人を設立すると、代表者(役員)も含め原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が生じます。設立後5日以内に年金事務所で新規適用の手続きを行い、役員報酬や従業員給与に対して社会保険料を納めます。また従業員を雇用する場合は労働保険(労災保険・雇用保険)の適用事業所手続きも必要で、労基署やハローワークで所定の届出を行います(労災は即日、雇用保険は雇用の翌月10日まで)。 - 法人設立後の営業許可:
法人形態で事業を行う場合でも、その事業内容に許認可が必要であれば法人として改めて許可を取得する必要があります。例えば法人で飲食店を経営するなら、飲食店営業許可を法人名義で申請します(食品衛生責任者は店舗ごとに配置)。法人だから許可が不要になるわけではありませんので、個人で開業する場合と同様に業種ごとの営業許可申請を行うことを忘れないようにしましょう。
以上が法人設立時に必要となる主な追加手続きです。個人事業の開業に比べると事務手続きが多岐にわたりますが、会社の信用力や節税効果など法人化のメリットもあります。適切に手続きを踏んでスタートダッシュを切りましょう。
まとめ
- 開業届は事業開始日から1ヶ月以内に所轄税務署へ提出しましょう。提出自体に罰則はありませんが、青色申告をする場合は開業日から2ヶ月以内に所定の申請が必要です。開業届を出すことで税制優遇を受けたり、公的な事業証明が得られるメリットがあります。
- 営業許可(許認可)が必要な業種では、開業前に必ず許可を取得してください。飲食店なら保健所の飲食店営業許可、美容院なら美容所開設の届出など、業種に応じた手続きを踏むことで合法的に営業できます。
- 開業届と営業許可は両方必要です。一般的には営業許可を先に取得し、開業届は開業後速やかに提出する流れになります。開業手続きにおいては、税務署への開業届提出と各種営業許可の取得を両輪と考えて進めることが重要です。
- 法人設立する場合、個人開業に比べて手続きが多くなります。会社設立登記、税務署・自治体への届出(法人設立届、青色申告承認申請、社会保険加入など)を期限内に行いましょう。法人であっても事業内容に応じて必要な営業許可を忘れず取得する必要があります。
- 開業準備の手続きを確実に完了させ、スムーズかつ合法的に事業スタートを切りましょう。不明点があれば税務署や所轄官庁に事前相談することも可能です。万全の準備で新ビジネスを成功させてください。
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